2019年7月2日火曜日

9話

その文房具屋にはシャッターが降りていた、毎年、大晦日にも正月にも店は開いていたが、
今年は閉店していた。シャッターには「都合によりしばらくお休みします」という張り紙があった。
張り紙を読んでからも、青年はしばらく立っていた。去り難かったわけではないが、
他にすることも無いので、ただ立っていた。その時、シャッターが少し開いて娘が一人出てきた。
あの少女だった。最後に見てから5年以上経っていたが、青年には分かった。
娘も驚いたような表情をしたが、彼女は青年を覚えていた。
「今日は来てくれたのにすみません。母が病気になって入院してしまって、
これからお見舞いに行くところです。」
と言った。
娘の言葉に対して、青年はしばらく理解も整理もできず、黙っていた。娘は、
状況を理解したらしく、説明した。

「私がここの娘だということを、お母さんには黙っていてくれるようにお願いしていたのですけど、
本当に守ってくれたんですね。時々来てくれた時には店の手伝いをしていたんです。」

青年が返事をする前に娘は、

「ごめんなさい面会時間に届けなければならないものがあるので。」

といって急ぐことを告げた。青年は、ちょうど駅まで行くところだと偽って、
娘が駅に向かう間、覚えていてくれた礼と自分の近況を手短に話した。それから、
青年は、翌日にもう一度娘と会う約束をして駅の改札前で別れた。大学院では女友だちもでき、
その程度の会話ができるようになったことが少し誇らしかった。

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