共学の公立高校の受験に失敗して、少年は男子校に行く事になった。
入学の日には、これからの高校生活よりも、少女が入学してきて名前を知る機会は
絶対に無いことばかりを考えていた。
入学の日には、これからの高校生活よりも、少女が入学してきて名前を知る機会は
絶対に無いことばかりを考えていた。
少年の通っている高校は遠かったため、電車での通学時間が長くなり、本を読む機会が増え、
文房具屋で本を買う回数は増えた。少年は、外が見えない地下鉄で、井上靖や中島敦が描く
遠い西域に憧れた。砂漠の中に都市があって、その中で人が暮らしている。騎馬民族の戦争は
砂吹雪よりも激しく確実に都市を包み込んで全てを流し去ってしまう。通学中に読むので、
物語の途中で地上に出ると、現実の通学風景が頭の中の西域の風景に続いた。普通の商店街と
それに続く校門があって、多数の高校生と一緒にヒトの流れに乗っているのは、それなりに、
砂漠の隊商と似ているところがあるような気がした。
文房具屋で本を買う回数は増えた。少年は、外が見えない地下鉄で、井上靖や中島敦が描く
遠い西域に憧れた。砂漠の中に都市があって、その中で人が暮らしている。騎馬民族の戦争は
砂吹雪よりも激しく確実に都市を包み込んで全てを流し去ってしまう。通学中に読むので、
物語の途中で地上に出ると、現実の通学風景が頭の中の西域の風景に続いた。普通の商店街と
それに続く校門があって、多数の高校生と一緒にヒトの流れに乗っているのは、それなりに、
砂漠の隊商と似ているところがあるような気がした。
高校2年になった時に、少女は、高校のセーラー服を着るようになった。少女が着ているのは、
少年が入学できなかった高校だった。その服を見て少年は、自分の高校を知られることを
避けたくなった。少年の通っている高校は教室の窓に鉄格子が嵌まっており、授業中でも、
廊下を歩くときでも、暴力に巻き込まれる危険があった。男子学生だけの高校では、
恋愛感情で心を高ぶらせる代わりに、同級生から金銭を巻き上げるスリルを楽しむ若者が存在した。
少年は、危険な同級生との会話で適切な距離をとることを覚えた。高校2年になっても
少年は金銭をとられず、暴力の被害にも逢っていなかった。上手く生き抜く技術を得たことは
少年に何の満足感も運んで来なかったが、砂漠を越える隊商のように最後は利益をもたらすと
信じて、少年は高校に通い続けた。
少年が入学できなかった高校だった。その服を見て少年は、自分の高校を知られることを
避けたくなった。少年の通っている高校は教室の窓に鉄格子が嵌まっており、授業中でも、
廊下を歩くときでも、暴力に巻き込まれる危険があった。男子学生だけの高校では、
恋愛感情で心を高ぶらせる代わりに、同級生から金銭を巻き上げるスリルを楽しむ若者が存在した。
少年は、危険な同級生との会話で適切な距離をとることを覚えた。高校2年になっても
少年は金銭をとられず、暴力の被害にも逢っていなかった。上手く生き抜く技術を得たことは
少年に何の満足感も運んで来なかったが、砂漠を越える隊商のように最後は利益をもたらすと
信じて、少年は高校に通い続けた。
文房具屋でたまに見ることができる少女は、少年には届かない高校の憧れで、遠い存在だった。
高校に入ってしばらくして、少女はポニーテールになった。
少女には相変わらず話しかけられなかったが、名前を覚えてくれた女店主とだけは、
本を買うときに話すようになった。男子校に通う少年にとっては、
数少ない会話ができる女性だった。
女店主は、文房具も本もおしゃれな駅前の本屋で買うようになった小学生を嘆いた。
少年は、主にうなづく役目だった。そのころ、少年は、学習参考書と大学案内を
文房具屋で買った。参考書は、少年にとっては、今の環境を抜け出すための地図のようにに
思えた。大学に進学することが出来れば、少年には新しい環境と自信がもたらされるような
気がした。大学では、普通のヒトが知らない知識と深い思索能力を獲得して、自分たちの
住む社会の未来を語れるに違いないと、考えた。NHK教育テレビで、社会の変化を淡々と
語る社会学者はきっと誰にでも尊敬されて、若い女性も真剣に耳を傾けるに違いないと考えた。
そして、少年が淡々と社会を語れるようになれば、きっと少女に同じ調子で名前を尋ねることが
できると思った。
少女には相変わらず話しかけられなかったが、名前を覚えてくれた女店主とだけは、
本を買うときに話すようになった。男子校に通う少年にとっては、
数少ない会話ができる女性だった。
女店主は、文房具も本もおしゃれな駅前の本屋で買うようになった小学生を嘆いた。
少年は、主にうなづく役目だった。そのころ、少年は、学習参考書と大学案内を
文房具屋で買った。参考書は、少年にとっては、今の環境を抜け出すための地図のようにに
思えた。大学に進学することが出来れば、少年には新しい環境と自信がもたらされるような
気がした。大学では、普通のヒトが知らない知識と深い思索能力を獲得して、自分たちの
住む社会の未来を語れるに違いないと、考えた。NHK教育テレビで、社会の変化を淡々と
語る社会学者はきっと誰にでも尊敬されて、若い女性も真剣に耳を傾けるに違いないと考えた。
そして、少年が淡々と社会を語れるようになれば、きっと少女に同じ調子で名前を尋ねることが
できると思った。
少年は、ラジオの大学受験番組を聴くようになった。
夜11時から始まる番組では、毎日、「ここさえ理解すればステップアップ」が語られて、
本屋で購入したテキストの一部を書き写すと実力が上がったような気になった。
番組が終わるころには家族も寝て家も屋外も静かになっていた。少年はそのころに、
しばした、オルゴールの箱を開けて甘い音色を聞いた。何度も聞いたために、
オルゴールは幾つかの音程を外すようになった。少年は、少女に聴いてもらう日のために、
できるだけ箱を開けないようにした。
夜11時から始まる番組では、毎日、「ここさえ理解すればステップアップ」が語られて、
本屋で購入したテキストの一部を書き写すと実力が上がったような気になった。
番組が終わるころには家族も寝て家も屋外も静かになっていた。少年はそのころに、
しばした、オルゴールの箱を開けて甘い音色を聞いた。何度も聞いたために、
オルゴールは幾つかの音程を外すようになった。少年は、少女に聴いてもらう日のために、
できるだけ箱を開けないようにした。
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