2019年7月2日火曜日

1話

昭和の家族にとって大晦日は特別だった。
大掃除をして、正月用品の買い物に出かける。大晦日の夕方から3が日の間は、
おもちゃ屋と一部のレストラン以外は全てのお店が閉店する。
正月を華やかに過ごすためには、この日に準備をしなけけばならない。
ほとんどの家庭では、夕方までその準備を終えてから、午後7時に始まるレコード大賞と
紅白歌合戦を見た。その華やかな時間の後に、家族全員で、行く年来る年を見ながら
食べる年越しそばが、少年は何よりも好きだった。
その夜には小学生でも夜中まで起きていられるため、森繁久彌やフランキー堺の映画を
見ることができた。

一年で最も家族の暖かさを感じられる時間だった。

その年の30日に、少年の母親は家事をやめた。
いつも甲斐甲斐しく父の世話をして、食後のお茶の温度まで父親に気を使う母親が、
食事を作らず、洗濯も掃除もやめた。ただじっと座る母親に、父親は何も文句を言わなかった。
大晦日には、母は洗濯を始めたが、洗濯が終わった後、
その洗濯物をかごを父の頭の上でひっくり返した。タオルや下着で顔が隠れた父は
何も言わなかった。


大晦日の夕方に、少年は家に居づらくなり地区センターに出かけた。
特別な日に、これほど寂しい気持ちになったのは初めてだった。この地区センターは、
この住宅街が計画されたときに、地区ごとに作られた商業スペースで、
お風呂やスーパーが入っている。
以前は母と買い物に来たが、2年前に私鉄がやってきて、
駅の周辺に新しくスーパーと商店街がオープンして以来、来る機会が減っていた。
少年はすることもなく、酒屋の前のベンチに座って、広場にいる鳩を眺めていた。
鳩は、いつもと変わらず餌を探していた。

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