2019年7月2日火曜日

13話

娘は、文房具屋の娘というのが嫌いだった。文房具を売っている店の娘ということが
知られると、小学校ではいじめられた。サラリーマンの子弟ばかりの小学校では、
自分の家の売り物で勉強している同級生が異質に見えたらしい。
結局、娘は隣町の小学校に転校した。

文房具も本も好きではなかったが、同級生にうまく溶けこむことが不得意だったので、
娘は店を手伝ったとのことだった。途中からは時間が余ってしまうため、娘は、
店の手伝いをするふりをしていつも本を読んでいた。そのころから、
住民の多くは駅前の本屋で本を買うようになったので、本は売れずにいつまでも
代わらなかった。ところが、そのころ通い始めた少年が、本を買うようになって、
空いたスペースに新しい本が入ってくるようになった。

娘にとって少年は、新しい本を運んで来てくれる存在だった。とはいえ、
この店の子であることは知られたくなかった娘は、少年が来た時には店員ではない
ような位置に立つようにしていた。本が並ぶ棚と文房具が並ぶ棚の中間の位置に立って、
文房具を選ぶような姿勢をすると、本当に自分が客であるように思えた。
ただ、いつも、自分の母親にお金を支払うときには少年を後ろから見ていた。


たくさんの本を読んだ読解力は、中学時代から少女の成績を向上させた。
店主である母親にとっては、娘が自慢と希望になった。娘は地元の大学にできた
情報科学の分野に進んだ。

「今の文房具屋は流行らないけど、いずれ流通の仕組みは変わる。そのときには、
今度は駅前の本屋よりも、この文房具屋の方が先端を行くのよ!」

と力強い声で拳を振り上げる娘は、青年が何度も想像した娘とは異なっていた。
でも、青年には娘が自分の想像と違っていることが楽しかった。

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