2019年7月2日火曜日

15話

青年は、母にちょっと出かけてくると告げ、サチフダを持って家から出て、
階段から走り始めた。少女だったあの娘に、名前を知ろうとした理由を見せようと思った。
朝方にコタツで寝入った娘はすでに起きていると思った。

自宅から地区センターへの下り坂を、青年は一気に下った。
息が切れて、地区センターの入り口で立ち止まった。


足と同じように、考えも進みを緩めた。あの娘はこんな魔法を信じるだろうか、
信じたとしても、フダに頼っている青年をどう思うだろうか。
地区センター脇の池を過ぎるときには、青年は、フダではなく自分で娘を幸せにしたい
と考えていることに気がついた。青年は地区センターの広場の前で足を止めた。


銭湯の前のベンチに老人と少女が座っていた。少女は湯気がでいいるカップそばを食べていた。
向かいを見ると少年がポツリと酒屋のベンチに座ってその二人を見ていた。
青年が少年時代に見たのと同じような様子を、おそらく近所に住む少年が見ていた。
違っているのは、そばがカップ麺であることだけだった。


青年は、自分に与えられた役目のように感じて、その少年の横に座って伝えた。


「あなはに、この紙を上げます。これはサチフダといって枠の中に名前を書くだけで
そのヒトを幸せにできます。でも覚えていてください。
このフダに書ける名前はひとりだけです。」


少年は、うなづいた後、サチフダを受け取って、
そばを食べている少女を、青年に気づかれないように、見た。

物語はこれでおしまいです。
全て昭和の時代の話です。

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